街歩き 庭めぐり

<はじめに>

街歩きは、今や年齢に関わりなく、多くの人の楽しみとなっています。人それぞれの興味や趣味の違いによって、街の選び方、ルートの選定も多様多彩になるものです。

このブログでは、ガーデンデザイナーとしての私が、街歩きの中で見つけた、面白いもの、きれいなもの、不思議なもの、すごいもの等々をご紹介するとともに、東京に残る、江戸や明治・大正・昭和といった近代に造られた庭をめぐり、その魅力や歴史や見所を少しずつご紹介していきたいと思っています。

 

<神田川沿いの街 早稲田の街と庭園>

神田川沿いの街歩き

甘泉公園 江戸の大名庭園にさかのぼる歴史を持つ庭園

大隈庭園 明治期の特色を残す庭園

 

<神田川沿いの街 目白台の街と庭園>

神田川沿いの街歩き

新江戸川公園

芭蕉庵

<神田川沿いの街 関口台の街と庭園>

関口台町 

椿山荘庭園

<白金台の街と庭園>

池田山

池田山公園

白金台の裏道・小道

八芳園庭園

桑原坂界隈

シェラトン都ホテル東京の庭園

<消えた渋谷川と街と庭園>

新宿内藤町

新宿御苑

<お客様の街で見つけた風景>

2019年

11月

13日

<消えた渋谷川と街と庭園―29>

新宿御苑 ⑭

 

□ 渋谷川の谷筋の湿地とラクウショウ林

 イギリス風景式庭園の西の端にあたる樹林を抜けていきますと、苑内を大きく周回する園路に出ます。ここは御苑の最西端で、すぐそこに境界の柵があり、その向こう側では御苑をかすめて造られている道路の工事現場が見えています。園路を左に取り南に向かいますと、園路はわずかに下っていて、正面にラクウショウ(落羽松)の林が現れてきます。林の先は向こう上がりの坂で、ここが渋谷川源流の浅い谷地形であることがわかります。

 

 ラクウショウはこのような川筋の、おそらくは地下水の流れる湿地を選んで植栽されたものと思われます。ラクウショウは北米原産の落葉針葉樹で、湿気を好む性質ですので、明治初期に種子がもたらされ、そこから育てた苗木がこの場所に植えつけれたのでしょうが、まさに最適の場所だったのではないでしょうか。現在11本のラクウショウは、樹高が30mをこえる巨木に成長していて、湿地に生育しているために気根を数多く立ち上げています。その特徴のある気根は、大きいものでは1mほどもあり、特異な景観を見せています。  

 別名ヌマスギ(沼杉)ともいわれますが、鳥の羽のような葉が秋には紅葉して落葉するさまから落羽松と名付け、また湿地や沼地などに生育する性質から沼杉と名付けるなど、樹木の性質をわかりやすく命名した昔の人のセンスのいいのには感心します。

 ラクウショウの魅力は、カラマツと同様に何と言っても春の新芽時と秋の紅葉といえるでしょう。春の若い新葉の爽やかな浅緑の樹林も美しいものですが、晩秋には紅葉した落ち葉が散り敷いて、あかるい日差しに照らされた林床が、いちめんに赤く染まるのも捨てがたい味があります。

 

 そんな、他では見ることができないこれだけの樹林が、一時は道路建設のために失われようとしていたのです。幸いにも御苑を管理する環境省や有識者などの強い反対によって計画は変更されて、道路の一部がトンネルになり何とか残されました。それでも昔の天龍寺の湧水を水源としていた元の渋谷川の地下には地下水が流れていたのではないかと思われますが、その水脈もトンネル工事で絶たれてしまったのではと心配になりますが、どうだったのでしょうか。

 

 

<<消えた渋谷川と街と庭園ー28 新宿御苑⑬

2019年

9月

25日

<消えた渋谷川と街と庭園―28>

新宿御苑 ⑬

 

□ イギリス風景式庭園 (2)

 御苑のイギリス風景式庭園は、広い芝生とそこを貫くビスタラインに特徴がありますが、その軸線を際立たせているのは、芝生の左右にあってパースペクティブを強調する樹林の存在です。樹林が空を背景につくりだす樹冠のラインと、樹林の下枝と芝生の接する地表面につくりだしている左右それぞれのラインが、消点に向かって延びているからこそ、中央の軸線であるビスタラインもはっきりと認識できるのだと思われます。

 

 それと共に消点に近づくにつれて芝生の幅が狭まり、左右の樹林の間隔が近くなるように計画されていることも、パースペクティブを強調する手法でしょう。下の写真は、新宿門に近い場所から西側を映したものですが、人物の姿から芝生が極端に狭くなっているのがわかります。

 

 樹林は、主にスダジイやマテバシイを中心とした常緑樹で、これらの木々が基本的なラインをつくりだしていますが、その前面に芝生に入り込むように不規則に落葉樹のサクラをはじめ花木類が植栽されていて、それが季節ごとに花や紅葉などで景観に彩りを添え、空間構成の見事さだけではなく庭園としての豊かさを醸し出しているようです。

 イギリス風景式庭園の芝生に沿って植栽されている落葉樹は、その多くはソメイヨシノをはじめとするさまざまな品種のサクラで、花時にはさすがに広大な芝生が人で埋め尽くされるような状態になります。しかし他の季節にも、大木となった花木の花も少なからず見受けられます。

 5月のこの時期に、花を見ることができる花木の一つにユリノキがあります。ユリノキは、北アメリカ原産で明治初期に初めて渡来した種子から成長した木が、現在では30mを超える巨木になって、この庭園内にそびえているのが見られます。街路樹などにも使われていて、都内では迎賓館前や日比谷公園近くに植えられ、街路樹としては相当の大木に育っていますが、それらは御苑のユリノキから採取された種子がもとになった木々と言われています。

 

 ユリノキの街路樹などでは強い剪定を行い、また人や車の通行、道路標識の視認性確保等のために下枝が切られて、花も少なくまた咲いても高い枝先に咲いているため、近くで花を見る機会が少ないのですが、御苑では低い位置に下枝があるために、花も眼の高さで見ることができるのです。

続きを読む

2019年

8月

26日

<消えた渋谷川と街と庭園―27>

 

新宿御苑 ⑫

 

 

□ イギリス風景式庭園 (1)

 幻の宮殿予定地から西の方向を眺めると、平坦な芝生が広がり、それが遠くまでまったいらに続いています。芝生の両側には、芝生を縁取る木々が連なってつくる樹冠のラインが、視線を遥か彼方の樹林にまで延ばして、パースペクティブを強調するかのように続いています。

 

 ところどころに、樹冠のラインをこえている木々もあり、それらは樹高が20mから30mもある大木であることを考えますと、都会の真ん中にあってこの空間が、いかに雄大な広がりを持っているかということを改めて感じます。

 

 こうした景観を見せるこの場所は、単なる芝生広場ではなく、日本で初めて造られたイギリス風景式庭園といわれる庭園で、宮殿を挟んで前庭部分がフォーマルなフランス式整形式庭園、そして宮殿の反対側の主庭となるこの部分が、インフォーマルな風景式庭園となっていて、明治の宮廷庭園として造られた御苑では、ヨーロッパの庭園を代表する対照的な庭園様式が共存しているのです。

 

 御苑の風景式庭園の特徴と言われているのがビスタライン(見通し線)で、宮殿から見て、地表面の芝生のつくるラインと、樹冠がつくるラインが彼方に消点を結ぶ中心線です。御苑の西洋庭園は、前庭と主庭とが異なる様式で造られていますが、正門から整形式庭園の中央を通り、宮殿を貫いて風景式庭園の中をまっすぐに通るこのラインの存在が、全体を一つの庭園にまとめているように思われます。

 

 ビスタラインについては、苑内の解説板にも書かれていますが、ビスタラインの存在を考えれば、可能な限り平坦で真直ぐな長いラインを描くことができるのは、敷地形状と地形条件から見て、南東から北西にほぼ苑内を貫通するように延びる線上に正門、整形式庭園、宮殿、そして風景式庭園を配した現在の配置が、最適の選択であったことがよくわかります。

 

 これに対して、内藤家中屋敷時代に正門があった、北の甲州街道側に正門を設けた場合、既存の広い道路からすぐにアプローチできる利便性はありますが、直線のラインを引くと途中に渋谷川の浅い谷があり、また距離が短いために、平坦で長いビスタラインを設定することはできなかったと思われます。

 

 それらのことを考えますと、御苑の庭園計画において、最も重要とされたのは長く平坦なビスタラインの確保、ということであったのではないかとさえ思えるのです。なにしろその条件をクリアするためには、苑の東端の外苑西通りに面して正門を設ける必要があり、そのため苑外の道路まで新設しているのですから、第一の優先順位とされていたと考えても不思議はありません。

 

 

<<消えた渋谷川と街と庭園―26 新宿御苑 ⑪

>>消えた渋谷川と街と庭園ー28 新宿御苑 ⑬

営業時間

平日10:00~18:00 

定休日

土・日曜日、祝祭日

お問い合わせ