街歩き 庭めぐり

<はじめに>

街歩きは、今や年齢に関わりなく、多くの人の楽しみとなっています。人それぞれの興味や趣味の違いによって、街の選び方、ルートの選定も多様多彩になるものです。

このブログでは、ガーデンデザイナーとしての私が、街歩きの中で見つけた、面白いもの、きれいなもの、不思議なもの、すごいもの等々をご紹介するとともに、東京に残る、江戸や明治・大正・昭和といった近代に造られた庭をめぐり、その魅力や歴史や見所を少しずつご紹介していきたいと思っています。

 

<神田川沿いの街 早稲田の街と庭園>

神田川沿いの街歩き

甘泉公園 江戸の大名庭園にさかのぼる歴史を持つ庭園

大隈庭園 明治期の特色を残す庭園

 

<神田川沿いの街 目白台の街と庭園>

神田川沿いの街歩き

新江戸川公園

芭蕉庵

<神田川沿いの街 関口台の街と庭園>

関口台町 

椿山荘庭園

<白金台の街と庭園>

池田山

池田山公園

白金台の裏道・小道

八芳園庭園

桑原坂界隈

シェラトン都ホテル東京の庭園

<消えた渋谷川と街と庭園>

新宿内藤町

新宿御苑

<お客様の街で見つけた風景>

2019年

7月

11日

<消えた渋谷川と街と庭園ー24>

 

新宿御苑 ⑨

 

□フランス式整形庭園 (3)

 整形式庭園は、左右対称の幾何学的造形が特徴とされますが、その形態の骨格は生垣によって形作られる、といっても過言ではないでしょう。生垣は、平面的には線として幾何学な地模様を描き出しますが、それと同時に庭園の内と外、園路と花壇そして芝生という性格の異なる空間を区画し、分割する役割をも果たします。

 立体的なアイレベル(人の視線の高さ)での生垣の役割といえば、ある場所では庭園内から庭園外の景色や余計なものを見せないように視線をさえぎり、またある部分では見せたいものへ視線を誘導するように方向付けを行い、そして時には生垣の隙間から向こう側を垣間見せて、奥行きを感じさせ、生垣の向こう側への興味をかきたてるなど、人の視線と意識をコントロールするさまざまな機能を果たしています。

 

 生垣がこうした多様な機能、役割を持つことから、整形式庭園は生垣によって骨格が造られ、空間構成された庭園ということができるのでしょう。これに対して、花壇に植えられるバラや草花、あるいは花木や紅葉は、幾何学的な平面構成を色彩によって強調し、あるいは季節ごとに彩る装飾的な役割ということになります。

 

 この庭園では、そうした生垣は中央の花壇を取り巻く高い円形の刈込垣が、周囲への目隠しと視線の誘導に使われていますが、その生垣はまたバラ園の背景ともなっています。また花壇の縁取りや芝生を縁取る低い生垣は、幾何学模様を作り、同時に園路とバラの植栽地そして芝生を区画する役割を果たしていて、改めて見直すと多くの生垣が使われていることに気がつきます。

 

 生垣は一般的には、上端を水平に、側面を垂直に壁のような形に刈り込んで仕立てることが多いのですが、この庭では最も長く丈の高い生垣は、円形の刈込垣になっています。形状は上部は丸く、高さもまちまちで、側面も曲面となっていて、全体に半球状のもこもこした緑の塊の連なりで、生垣として認識しにくいかも知れませんが、これも生垣の一種なのです。

 

 こうした形状の生垣は、直線にカッチリと刈り込まれた生垣と比べると、やわらかな印象をうけますが、それと共に一種類ではなく多くの樹種を使って、季節ごとの変化を楽しむことのできる生垣でもあります。混ぜ垣と言われますが、生垣の一部を見ただけでも針葉樹ではチャボヒバ・キャラ・イトヒバがあり、常緑広葉樹ではツツジ類・サツキ・カナメモチ・アセビ・ウバメガシ・グミ・ヤツデ・ネズミモチ・アオキ・チャ・マサキ・シロダモ・ヒイラギなど、また落葉樹ではヤマモミジ・ドウダンツツジ・アジサイ・ウツギ・ボケというように多くの樹種が使われています。

 

 これらの植物は、まじかに見ればそれぞれが葉の大小・形・色の濃淡の違いを見せ、また花の咲くもの、紅葉・落葉する樹種などが季節によって変化を示すのですから、生垣といえども単調なだけではない季節の彩を見せる存在でもあるのです。

 

 

<<消えた渋谷川と街と庭園―23 新宿御苑 ⑧

 

 

2019年

6月

29日

<消えた渋谷川と街と庭園―23>

 

新宿御苑 ⑧

 

□フランス式整形庭園 (2)

 整形式庭園の中央部は、バラ園になっています。細長い長方形の一端が曲線になっているバラ園は、上下二段に区切られていて、それぞれ周囲を二重の低い生垣で縁取り、バラはその間に植えられています。鑑賞する人たちは、砂利道の園路を、バラ園に沿って周囲を巡りながら見て歩く形になります。この日は5月の天気の良い日ということもあって、咲き誇るバラを見に多くの人が訪れていました。

 バラ園の内側は、広い芝生になっていて、下段ではその真ん中に正門のあたりから見えていたシュロの寄せ植えがあり、アクセントになっています。シュロは、上野池之端の旧岩崎邸庭園の洋館玄関前の車廻しにも植えられていましたので、明治・大正期には最も洋風のイメージをもつ植物だったものと思われます。

 

 これに対して上段の芝生の中には、高さを変えて低木を丸く刈り込んだいくつかの塊を、緑のオブジェのように配していますが、こうした植栽は芝生の広い空間を引き締める効果を考えてのことなのかもしれません。

 

 バラ園の周囲は、正門近くから続く刈り込み垣が取り巻き、さらにその外側にはプラタナスの並木が背景を作っていて、色とりどりの色彩のバラの花がくっきりと浮かび上がっています。

 

 バラは、品種ごとの花の形や色彩を詳細に見、そして香りを楽しむことが 多く、そのため多くのバラ園では、花壇の区画も小さくまじかに見られるような造りになっています。御苑のバラ園でももちろん一株ごとに品種名を付けていて、それぞれの花を観賞することができますが、それよりも圧倒的な広さの整形式庭園の造形美と、それを彩る色彩としてのバラの美しさを観賞する庭のように思われます。

 

 それというのも、もともとこの庭は、御苑の中心となるはずであった幻の宮殿へのアプローチであり、前庭だったのですから、人の通行というよりは馬車での通行を前提とした造りになっていたのです。つまり個々の花よりも集団という美しさが求められていたのではないかと思われるのです。

 

 そうした意味において、邸宅の庭園内に設けられた、人が散策しながらバラの一輪一輪を観賞するバラ園や、バラを中心とした庭園とは、全く異なる性格と形態とを持っているのではないでしょうか。

 

 バラは秋にも開花期を迎えます。昨年の晩秋御苑を訪れた際に、最盛期は過ぎたものの咲き残りのバラを見ることができました。

 12月のはじめという、バラの季節としては遅い時期でしたので、さすがに花数は少なくまた芝生も枯れ色となり、プラタナスも葉を落として少し寂しい庭でした。しかし芝生を縁取るドウダンツツジの生垣の紅葉と、落葉したプラタナスの幹が白々と立ち並んでいて、また春とは異なる美しさを見せていました。

 

 こうした光景を見ますと、プラタナスは整形式庭園を構成する要素として、きわめて重要な役割を持っていることを改めて認識します。葉のある時期には、円錐形の樹形が、そして落葉した後には白い樹幹が立ち並ぶことによって、背後の樹林とははっきり区切られていることがわかります。

 

 バラは、こうした整形式庭園にときおり華やぎをもたらす役割を持っているようです。

 

 

<消えた渋谷川と街と庭園―22 新宿御苑 ⑦

>>消えた渋谷川と街と庭園ー24 新宿御苑 ⑨

2019年

6月

16日

<消えた渋谷川と街と庭園―22>

 

新宿御苑 ⑦

 

□フランス式整形庭園 (1)

 玉藻池の池尻まで戻り、そこから苑内の東の端を巡る園路を南にたどりますと、その辺りは常緑針葉樹のヒマラヤスギの大木の林で、陽ざしが遮られているためか薄暗く、人影も見えない静かな園路が続いています。

 園路は少しづつ下っていて、ヒマラヤスギの林を抜けると、そこは御苑の東端の正門の内側で、門扉の向こうには外苑西通りの、渋谷川の流路をたどって歩いた際に見た風景が垣間見えます。

 

 ここは周囲よりも一段低く、おそらく御苑の中でも最も標高の低い場所かもしれません。それというのもこの場所は、四谷と千駄ヶ谷の台地の間を流れていた渋谷川の谷筋で、外苑西通りは、その川筋に沿って通っているからです。

 フランス式整形庭園は、そこから台地上にかけて上る、ゆるやかな斜面に造られています。門を背に庭を見上げますと、正面には真直ぐに砂利道が延びていて、両側にはさまざまな種類の木々を丸く刈り込んだ刈込垣が造られ()、左右への視界を遮り、正面に視線を集中させるような造りになっています。

 

 その先の、視線の焦点になる位置には、シュロの寄せ植えが見えていますが、もともとの計画では奥の台地上に、二階建てのルネッサンス風宮殿が建築されることになっていたようです。しかしそれは実現しないままに終わり、現在ではシュロの先には空虚な空と、現代の風景である新宿の高層ビルが、我が物顔に顔を出しています。

 

 苑内で最も低いこの場所に敢えて正門を設けたのは、高低差を生かして、正門から続くアプローチの先に、宮殿をより高く、大きく見せるとともに、馬車が進むごとに全容が少しずつ見えてくるドラマチックな演出を狙ったのではないかと思われます。そのために、正門に至る道路まで新設(新宿内藤町⑨参照)していたのですから、この整形式庭園は外国の眼を意識した、宮廷庭園の中でも最も重要な庭園であったのかもしれません。しかし、予算不足のため宮殿はついに実現しませんでした。

 また、この場所からは左右に園路が分かれていて、それぞれ4列に整然と植えられたプラタナスの並木道に続いています。プラタナスの並木は、珍しく円錐形に仕立てられ、中央の花壇を縁取るとともに、周囲の樹林からはくっきりと庭園を区画するかのように、樹形の違いを見せているようです。

 

 しかしこの位置からは、全体を見通すことはできません。それは、美しい景色はこの先にあることを予感させる、序奏に過ぎないからなのかもしれません。

 

(註)刈込垣に使用している樹種

   常緑樹―ツツジ類・サツキ・カナメモチ・チャボヒバ・アセビ・キャラ・ウバメガシ・グミ・ヤツデ・

       ネズミモチ・アオキ・チャ・マサキ・シロダモ・ヒイラギ・イトヒバ等

   落葉樹―モミジ・ドウダンツツジ・アジサイ・ウツギ・ボケ等

   

 

<<消えた渋谷川と街と庭園ー21 新宿御苑 ⑥

>>消えた渋谷川と街と庭園-23 新宿御苑 ⑧

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