街歩き 庭めぐり

<はじめに>

街歩きは、今や年齢に関わりなく、多くの人の楽しみとなっています。人それぞれの興味や趣味の違いによって、街の選び方、ルートの選定も多様多彩になるものです。

このブログでは、ガーデンデザイナーとしての私が、街歩きの中で見つけた、面白いもの、きれいなもの、不思議なもの、すごいもの等々をご紹介するとともに、東京に残る、江戸や明治・大正・昭和といった近代に造られた庭をめぐり、その魅力や歴史や見所を少しずつご紹介していきたいと思っています。

 

<神田川沿いの街 早稲田の街と庭園>

神田川沿いの街歩き

甘泉公園 江戸の大名庭園にさかのぼる歴史を持つ庭園

大隈庭園 明治期の特色を残す庭園

 

<神田川沿いの街 目白台の街と庭園>

神田川沿いの街歩き

新江戸川公園

芭蕉庵

<神田川沿いの街 関口台の街と庭園>

関口台町 

椿山荘庭園

<白金台の街と庭園>

池田山

池田山公園

白金台の裏道・小道

八芳園庭園

桑原坂界隈

シェラトン都ホテル東京の庭園

<消えた渋谷川と街と庭園>

新宿内藤町

新宿御苑

<お客様の街で見つけた風景>

2021年

7月

04日

<消えた渋谷川と街と庭園ー41>

新宿御苑 ㉖

 

□中の池・イギリス風景式庭園 (3)

 池の南岸を歩きながら、北岸の景色を眺めていきますと、所どころで視界が奥までとどき、芝生の広がりを望むことができるところがあります。このような水面と芝生とが一体となって広がるひろびろとした景観こそが、イギリス風景式庭園の特徴の一つなのだと思われますが、池の周辺では木々が大きく成長したためか、やや視界が閉ざされている印象を受けます。そうした印象は、中の池と下の池を仕切る池の東岸から中の池を眺めますと、よりはっきりとわかります。

 これは中の池の東端から西側を映した写真です。左手の南岸は、右の北岸以上に丈の高い木々に水際まで覆われています。その樹林の上に新宿の高層ビルが頭をのぞかせ水面に映る姿は、都会の中の美しい景色といえるでしょうが、木々の豊かさは良いとしても、樹林によって視線が遮られて広がりという面では本来の特徴が失われつつあるのではないかと思われます。

 

 しかし、芝生の連なりが地形のうねりをそのまま見せるイギリスの丘陵地のような景観も、この中の池の周辺でこそ見たい気もします。そんなことを思うのも、やはり昔の写真などを見たりするためかもしれません。

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2021年

6月

17日

<消えた渋谷川と街と庭園ー40>

新宿御苑 ㉕

 

中の池・イギリス風景式庭園 (2)

 中の池の周りは、サクラが多く植栽されていますので、春の花見の頃にはさしもの広いイギリス風景式庭園の芝生も園路も人でいっぱいになります。しかしそれほど混雑しているようには感じられないのは、ひろびろとした水面のあるおかげで、空間にゆとりがあるためなのでしょう。

 

 秋の紅葉が楽しめるこの時期は、これも皇室庭園以来の伝統ある菊花壇の展示が行われていますが、会場が日本庭園ですので、このあたりには比較的人が少なく、また木々もいまだ浅い色づきということもあってあまり人を気にせず散策もできますし、写真を撮ることもできます。そこでゆっくりと池の南岸の園路をたどって、中の池北岸の風景を眺めることにしたいと思います。

 

 やはり池の周りということになれば、紅葉に囲まれたレストハウスが景観ポイントになります。この位置からは、背景の紅葉だけではなく、それが水面に写ってよりにぎやかに見えるとともに、さらに手前の木の枝の紅葉までも加わって、なんとも贅沢な景色があらわれていました。これもこの時期だけのもので、夏の青々とした木々の葉群が茂る時期であれば、ただうっとうしい景色に過ぎないのでしょうが、季節が違えば庭の印象もまったく異なるのですから、庭についての印象を書くというのも、ずいぶんとあやういことと言えるのかもしれません。

 

 それというのも、造形的な日本庭園であれば、池の形態や護岸の石組、滝や沢飛石、灯篭や石塔等々季節に左右されない構成要素について書くことができるのですが、造景的な自然風景式の庭では多くの場合植栽による景観構成が行われることが多く、その場合には特に季節的景観特性(例えばサクラの花や紅葉の美)によって印象が左右されてしまうのです。

 

 今の私は、やはりそうした印象のもとに、この記事を書いているのかもしれませんので、「中の池・秋の印象」という限定で読んでいただきたいと思います。

 長大なビスタラインが特徴的な平坦な大芝生地を縁取る落葉樹の大木も、反対側の中の池から見ると、斜面の芝生の背景としてきわめて効果的な役割を果たしているようです。それは、人は前に開けてなお背後が閉ざされた空間に安心感を覚えると言われていますが、この斜面の芝生地は、池に向かって下りながら開かれた水面を見下ろす位置にあって、ここに座る人にとっては、目の前に広がる景色を眺めながらも、自らの背後を守られている形そのものが心理的にも安心を覚える、心地の良い空間になっているからです。

 

 こうした地形や空間構成に加えて、この中の池北岸は、旧渋谷川に沿って形成されたゆるやかな斜面をそのまま生かし、全体に芝生が多く、植栽も落葉樹が多いために明るい印象があります。池の形態は、日本庭園のように複雑な汀線の出入りはなく、また水辺に庭園工作物などもないため、ことさらに池の周りに人が集まるわけでもなく、芝生に座っている人たちも何かを見るというよりも、ただ静かで穏やかな空間と時間とを楽しんでいるように思われます。

 

 こちらもそうした人たちを横目に、のんびりと散策しながら写真を撮っているつもりでしたが、彼らから見ると、「何をせかせかと写真なんぞとって歩いているんだろう。」という風に見られているのかもしれません。そんなことを思いますと、庭を造る人間は、しょせん庭を楽しむことがやはりできないのかもしれません・・・。

 

 

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2021年

6月

09日

<消えた渋谷川と街と庭園ー39>

新宿御苑 ㉔

 

□中の池・イギリス風景式庭園 (1)

 日本庭園から、池の南岸の園路をたどり、旧御涼亭の前を通って庭園の東の端を限る常緑樹の樹林を抜け出しますと、がらりと景色は一変します。目の前には奥行きの深い水面を中心に、サクラをはじめとする落葉樹が淡い紅葉を見せていて、その奥のマツ林も、日本庭園とは違って、自然な樹形で、ここがイギリス風景式庭園の一部であることを思い出しました

 

 

 右手の千駄ヶ谷門から来る園路をたどって左に、池の北岸に向かい、ゆるやかに傾斜している芝生を上りますと、まっ平な芝生が広がって、その中に点在する巨木たちが雄大な樹形を高くそびえさせています。日本の公園にはちょっと見られないイギリスの庭らしい景観を見せていて、さすがに日本最初のイギリス風景式庭園であり、宮廷庭園であった歴史を感じます。

 写真のこの木は、以前にビスタラインに沿って歩いた、芝生の真ん中のルートからすればやや端に位置していますが、巨木の多い御苑の中でも最も樹高の高いユリノキで、40mをこえているそうです。

 

 巨木というだけではなく、東京の街路樹で使われているユリノキの街路樹は、これらの木を親木として増殖された苗木が、各地に植栽されたといわれています。言わば東京の街路樹の元祖でもありますので、敬意をこめて御苑を訪れた時には、このユリノキを一目見ることにしています。

 

 さて、ユリノキへの挨拶を終えて、再び中の池に戻ります。途中芝生の斜面から池を眺めますと、浅い渋谷川の谷と台地のうねるような地形が、イギリスの風景を思わせて、この地をイギリス風景式庭園とした、マルチネーと、それを実現させた福羽逸人氏ら先人の地形を読む力を感じます。

 

 さて中の池ですが、北岸の、台地から芝生の斜面にかかる位置にレストハウスがあります。案内図では、ほかの施設は休憩所とされていますが、ここだけはなぜかレストハウスなのです。その理由はわかりませんが、近年建て替えられて今風のモダンなデザインの外観に代わるとともに、スターバックスコーヒーが入っています。今風の施設でありサービスなのでしょう。

 

 このレストハウスからは、中の池の水面を近景として、対岸の千駄ヶ谷台地を広く見渡す、眺望に優れた場所ですが、同時に周りからはこの建物が景観的なポイントとしても見られる存在でもあります。そうした意味では、建物の外観も重要な景観要素と言えるでしょう。ところで、何事も昔の方が良いというわけではありませんが、庭園建築という見方からするとイギリス風景式庭園には前の建物の方が、こじんまりとした寄棟の屋根が似合っていたように思われたのですが、これも年寄りの繰り言でしょうか。 

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