ミニ情報
本歌(ほんか)・本歌取(ほんかどり)
有名な古歌の一部を用いて作歌する表現手法。取った古歌の世界を自歌の背景として奥行を与え、情趣の重層化をはかり複雑な余情美を創り出すもの。(『国史大辞典』)
和歌をつくるうえで用いられた手法を、作庭に応用し、また型を持つ石灯籠や水鉢、竹垣等の模作をおこなう場合に使用する言葉。本歌とは誰でも知っている「有名な古歌」のことで、作庭ではよく知られた「景」または「手法」、石灯籠や水鉢、竹垣では原型となっているものをいう。
それはともかく、般若寺型石灯籠が、三重塔の隣に移ったことは、石灯籠の据えられる場所としては、以前の丘の麓近くの園路脇よりは良いと思いますが、ここも私には今ひとつ落ち着かないような気がします。それはこの灯籠が、庭園の中でところを得て据えられているわけではなく、有名な般若寺型灯籠の本歌として“展示”されているということに、理由があるのかもしれません。
石灯籠は本来、寺院における仏への献灯という役割や、社寺の参道の照明、その後に生じた庭園の照明、あるいは景観的添景物としての役割があると思われるのですが、ここではそのいずれでもなく、ただ般若寺型石灯籠の本歌として観賞するために“展示”されているのです。いわば博物館に入った掛け軸や茶碗などの道具といった感じです。
しかしそうした庭園景観中心の配置か、灯籠鑑賞の為の展示のどちらが良いのかは、一概にいえません。「庭園景観と灯籠」という見方に対して、「石造美術」の観賞という楽しみ方もあって、この場合には対象にできるだけ近づいて、彫刻の細部まで見極めることが必要になりますので、本歌の特徴を確認するためには、現行の展示方法の方がやはりふさわしいことになります。
いずれにしても、そうした個人的な感想は別にして、本歌とは日本でただ一つの存在であり、関東にはめったにないものですので、じっくり鑑賞したいものです。