<白金台の街と庭園-17>

白金台の裏道・小道 ①

□ 崖沿いの小道

 白金台のように台地と谷戸の入り組んだ、地形の変化に富んだ街には、あちらこちらに興味を覚える道があります。地形の変化といえば坂道を思い浮か べますが、白金台には坂道に限らず裏道や細い小道も多く、道沿いには古い石垣や家屋、あるいは道端の大木や古木など時の流れを感じることのできるさまざま なものを見ることができます。新しく広げられた大きな道路を避けて、そうした道を探して歩くのも散歩者の好むところです。

 

  池田山公園の正門を出て右へ、東に位置する白金台二丁目へ向かいます。道は台地に突き当たると、道幅が狭くなるとともに急坂となって台地を上り、崖の中腹 につけられた小道にたどり着きます。道幅は3mに少し欠ける程でしょうか、左手には崖から伸び上がった何本ものムクノキの大木が枝を広げ、鬱蒼とした木陰 をつくっていて幹にはキヅタが這い登るという、自然味あふれる光景が続いています。

 

 小道からの視界は笹薮で遮られていますが、道の途中にある崖下からつけられた階段の上からは、池田山方面や上大崎一丁目の寺町あたりのマンションやビル が眺められ、昔はさぞかし眺望もよかったものと思える高さにあることがわかります。しかし皮肉にも、今はまわりが見えないことが却って小道の風情を守って いるようです。

 

 小道の右手は住宅で、大谷石の擁壁を積んでいますが、この擁壁も崖の中腹につけられた昔の細い小道を広げるときに、道幅を広げるとともに宅地を平らにするために積まれたものと思われます。しかし、それも今では時を経た大谷石が風化して、昔の道らしい味が感じられます。

 

 この道は、崖下の谷戸がまだほとんど畑で、道も通っていない、明治の頃の地図に見ることのできる、谷戸と台地上とをつなぐ古い道です。そうした昔の小道の雰囲気が残っているところも、東京では見ることができなくなってしまいましたが、幸いにもここ白金台にひっそりと残っていました。

 

 東京の街の散歩者にとっては、バイブルともいえる永井荷風の『日和下駄』の「崖」の項には、荷風が最も好んだ小道「藪下道」が描かれています。

 

「根津権現の方から団子坂の上へと通ずる一条の路がある。私は東京中の往来の中で、この道ほど興味ある処はないと思っている。片側は樹と竹藪に蔽われて昼猶暗く、片側はわが歩む道さへ崩れ落ちはせぬかと危まれるばかり、足下を覗くと崖の中腹に生えた樹木の梢を透して谷底のやうな低い処にある人家の屋根が小さく見える。されば向は一面に遮るものなき大空かぎりもなく広々として、自由に浮雲の定めなき行衛をも見極められる。」

<「永井荷風集(二)現代日本文学全集68 筑摩書房 昭和33年より、漢字は旧字を新字に直している。>

 

 荷風が好んだこの文京区千駄木にある「藪下道」も、現代では竹藪は勿論なく、崖下にビルやマンションが建ち、道幅も広く、舗装され、どこにでも見られる何の変哲もない道に変わっていて、残念ながら『日和下駄』に描かれた光景のかけらも残っていません。

 

 しかし、そんな幻の道を思わせる雰囲気が、白金台のこの小道には残っているのですから、何とも街歩きとは面白いものだと思います。

 

 

営業時間

平日10:00~18:00 

定休日

土・日曜日、祝祭日

お問い合わせ