<白金台の街と庭園-31>

八芳園⑧

□ 茶室夢庵(1)

 茶室夢庵は、園路からは一段高い、小丘の麓というような場所に、樹林を背景に建っています。茶室は、三棟の建物から成っていて、中央に寄棟造桟瓦葺きの 屋根を持つ、表千家残月亭写しの広間が置かれ、西側の池に近い位置には入母屋造桧皮葺の三畳台目下座床の小間の席が、また広間の反対側には、寄棟造桧皮葺 の、土間で椅子席の待合が付属しています。

 

 この茶室は、明治初期に生糸貿易で財を成し「天下の糸平」とよばれた田中平八氏の横浜の邸宅に建築されたものといわれ、久原氏が、この地に邸宅を営むときに、譲り受け移築したと伝えられています。八芳園には、この夢庵をはじめ壷中庵、長屋門と後世に改築、あるいは増築されてはいるものの、明治期の建物が残されていて、震災や戦災で多くの建物が失われている東京の真ん中で、今に至るまで現存しているというのはきわめて稀なことではないでしょうか。


 また、余談になりますが、田中平八氏の子息「二世糸平田中平八」氏が、大正から昭和初期にかけて、ここ白金台からもさほど遠くない芝区葺手町(現・港区虎の門四丁目)に敷地18.000坪余という大邸宅を造営し、庭内には茶室も設けていましたが、なぜか初代糸平の茶室夢庵は久原氏の手に入ったために今に伝えられたわけで、仮に二世糸平氏の屋敷に移築されていたとしたら、大邸宅と共に消滅していたのかもしれません。


 それはさて措き、夢庵前の庭は少々変わった造りになっているように思われます。元々はどうであったかはわかりませんが、現在は二か所から庭に入るようになっていて、それぞれの入り口から入って茶室を見ることができるようになっています。

 

 その一つは、池沿いの園路からすぐに植込みの間を抜けて、直角に曲がり小間の席に直接向かう園路です。飛石の打ち方としては、珍しく一直線に打たれていて、その先の石段を上がるとすぐに小間の席の躙口に突き当たります。途中、石塔の台石のような四角く、側面に唐草様の文様を浮き彫りにした水鉢を使った蹲踞があり、その先には凝灰岩でしょうか、火袋に彫られた六地蔵も、笠も、とろけかかったような古雅な寄せ灯籠が立っていて、茶庭の趣は感じられますが、一直線の露地という異例の造りは、あまり例のない茶庭ということができるでしょう。

 


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