<白金台の街と庭園-32>

八芳園庭園⑨

□ 茶室夢庵の庭(2)

 茶室に向かうもう一つの園路は、すぐ脇にある大護神社側から入る園路です。低い簡素な枝折戸のあたりから、ゆるやかに曲線を描く幅広の延段が、待 合に向かってゆったりと続き、夢庵はその先に都内とも思えぬほどに茂り立つ木々を背景に、うずくまっています。茶室の前面の庭には、アカマツやカシの大木 が丈高く太い樹幹を見せて立っているのも、野趣を感じさせるところです。


 延段は石の厚みを見せて、柔らかな曲線でありながら石の模様にも力強さを感じさせて、重厚感のある造りです。園路は、さらに待合の前で延段と分か れ飛石となり、広間に向かって延びていきますが、途中伽藍石の踏分石で一方は広間前の沓脱へ、またもう一方は建物と平行に庭を横切って、小間の席へと向か う延段とに分かれています。飛石も伽藍石もいずれも大振りで、このあたりの造りは茶庭とはいえいかにも広間の庭にふさわしいゆったりした感じになっていま す。


 植栽は、もともとあった大木を生かすためでしょうか、至極あっさりとしています。数本のモミジとカンチクを低く刈り込んだ竹群のみで、地表を覆う地被や下草などは一切使わず、黒土の地面をそのまま見せるというきわめてシンプルな造り様なのです。

 

 夢庵の庭は、言わば骨太で簡潔、そしておおらかな茶庭ということができるのではないでしょうか。現代の茶庭は、細部に至るまで造りこみ、一株の下草まで配植にこだわった、繊細ともいえる作風のものが多いように思いますが、それとは対照的ともいえる野趣に富んだ作風なのです。


 ところでこの庭には、広間の茶席によく見られる縁先手水がありません。そのためでしょうか、灯篭も座敷近くにはなく、庭の端近くの目立たないところ に、なにやらひっそりという感じで置かれています。五尺ほどの小振りの灯篭で、しかもその灯籠が八芳園の名物ともいえる、鎌倉時代に造られた彌陀六の灯篭 というのも、控えめで侘びた味わいを感じさせます。


 さらに言えば、この彌陀六の灯篭は、滅亡した平家一門の供養のために造られたという由来が伝えられていることからすれば、華やかなカップルが写真を撮る園路沿いよりも、却って野趣と侘びた風情が漂う夢庵の庭が、ふさわしい場所なのかもしれません。

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