<白金台の街と庭園ー41>

八芳園庭園 ⑱

□歴史をたどるー大正時代(3)

 

 久原氏の庭園は、周辺の土地を次々に購入しては広げていく形で拡大していきますので、庭園全体を一時に計画し作庭するという普通行われる方法ではなく、何回かに分けて作庭された部分部分をつなげ、互いを調整してなじませるようにして仕上げられたものと考えられます。こうした方法では、完成までに時間がかかることになりますが、土地を購入しつつ庭園の構想を練り、作庭するという状態を考えれば、当然であったともいえるでしょう。

 

 久原氏の庭園が、全体としてはまだ完成途上にあった大正10年(1921)に、高橋義雄氏が庭園を訪れ、そのときの様子を記録していますが、そうした作庭の過程をうかがうことのできる記述があり興味を惹かれます。少し長い文章ですが引用します。

 

「久原邸は故渋沢喜作氏の旧宅にて面積七八千坪もあるべし。庭に二株の大松あり、其他全面松林中に桜樹間錯して今や三分通り開きかけたる風情市中の住居とも思われず。幸い小雨なれば主人と共に庭内を一巡せしに崖下に池あり、未だ十分に出来上りたる庭ならねど、嘗て平岡浩太郎が熊本より取寄せ紀尾井町の自宅に据置きたる仏像入り十三重塔(石造)が、何時の間にか此池辺に建て置かれければ、久々に之を一覧するに全部完全にて珍しき塔なり。久原氏は平岡氏の跡を承けたる岩下清周氏より之を買取りたる由なり。」(『萬象録』大正10年4月7日 『久原房之助』日本鉱業、昭和45年所収)

 

 この記事によれば大正10年当時、久原邸の土地の面積は7、000坪から8、000坪と記されています。渋沢邸時代の3、000坪からは倍以上になっていますが、後年の12、000坪にはとどいていませんので、まだ拡張の途中であったようです。

 

 しかし、高橋義雄氏を招いて庭を案内しているところをみれば、母屋を中心とした建物回りや、マツの点在する芝庭とその背景となるサクラを交えた松林などは出来上がっていたわけで、おそらく台地の上段から中段にかけての庭は、完成していたものと思われます。

 

 高橋氏はかつて、旧渋沢氏時代の庭園を「今後何程金を掛けても天下の名園と為らざるべき」と久原氏に語っていたのですから、その高橋氏をあえて招いて庭を案内した久原氏は、相当に自信のあった出来栄えであったのでしょう。他家の庭を見ても比較的辛口の評価をする高橋氏も「全面松林中に桜樹間錯して今や三分通り開きかけたる風情市中の住居とも思われず。」と称賛している書きぶりです。それも人の思惑を気にしなくてもよい私的な日記だけに、本心であったのでしょう。

 

 次に高橋氏は、久原氏の案内で庭を一巡します。斜面の下の池のあたりを見て、「未だ十分に出来上がりたる庭ならねど」と記していて、ここからは私の推測になりますが、池まわりの作庭はほぼ出来上がっているものの、明治学院から購入した土地に茶室夢庵や大護神社を建てる予定の土地が、まだ空地であった状態を見ての印象だったのではないでしょうか。

 

 茶室や神社がいつ建てられたのかはわかりませんが、高橋氏は自邸の茶室三カ所を含めて、幾つもの茶室の建築や移築を手掛け、自ら設計や工事の指導を行ってきた経験がありますので、茶室があればもちろん、建築中であったとしても必ず言及するはずです。池まわりの庭園が、まだ十分に出来上がっていないという言葉は、そうした状態を示しているように思われるのです。

 

 また池まわりの庭に関連して、石造の十三重塔のことが書かれています。高橋氏は、灯篭や層塔、水鉢、飛石等の石造品は、自ら京都、奈良等を訪れて、社寺をはじめ個人の屋敷、古美術商、植治等の庭師のところ等から買い入れて、自邸の庭に使うとともに、作庭の依頼を受けた庭園に入れるほど知識とこだわりを持っていましたので、かねて見知っていた十三重塔の由来まで興味を持っていたものと思われます。

 

 ところでこの十三重塔が、池のほとりに建てられていたという記述ですが、現在の八芳園庭園では台地の中段の園路わきに建てられている塔は、もともとは池のほとりに建てられていたことが分かります。その場所がどこであったかは不明とするしかありませんが、後年現在の場所に移設されたことを考えれば、現在本館の建っている場所から滝のあるあたりにかけての所ではないかと想像します。本館の建つ以前の状態を想像すると、十三重塔が大きいだけに、池越しに眺めても十分見栄えがしたのではないかと思われます。

 

 

         久原房之助氏

図版出典:『久原房之助』日本鉱業、昭和45年

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