<白金台の街と庭園ー74>

シェラトン都ホテル東京の庭園 ⑳

 

 歴史をたどるー昭和時代 (4)

  『庭園と風景』(17巻6号)には、園遊会の記事や写真だけではなく、藤山邸庭園のほぼ全体を描いた鳥瞰スケッチが掲載されています。これは大変ありがたいことで、これまで見てきた庭園の記事や写真も、全体のどの部分にあたるのかがはっきりわからなかったのですが、この鳥瞰スケッチによってようやく全体の位置関係がつかめるようになったのです。

 この図を見ながら、改めて今までの記事や写真を見直してみたいと思います。スケッチは、庭園の東側から西側を見る位置に視点があり、建物が描かれている上が目黒通り側の高台になっています。

 

 まず藤山邸の正門は、右下の桜田通り側から出入りする「習靜門」です。この門は備前岡山藩池田家の上屋敷の門でしたが、維新の後荒廃していたのを藤山氏が譲り受け、移築して全面的に修理をしたものです。

 

 門を入ると奥行きのある前庭で、左側には主庭との間を区切る植栽地や生垣があり、「楠舟門」と「石筍門」の二つの庭門が設けられています。その一つ「石筍門」とは、現在もホテルの庭に残されている石筍を門柱の代わりにした門のようです。前庭の奥には洋館の玄関がありますが、その手前には車廻しが描かれていて、その真ん中にある石のようなものが、高橋箒庵氏が日記に記した「兜石」なのでしょうか。

 

 主庭には「楠舟門」から入り,時計回りに見ていきます。門を入るとすぐ右手に、写真にあった円筒形の石材を配した階段があり、マツ林の中に四阿も描かれています。その近くには層塔らしきものもありますが、これは現在も残る十五重の層塔かもしれません。

 

 その下には「石門」と「茶室」という書き込みがあります。「石門」もまた現在のホテルの庭園に見ることができますが、「茶室」への入り口としての中門の役割を果たしていたのでしょうか。そうであるとすれば、これも破格の造り様です。

 

 その下、つまり図の一番下には「田舎家」が描かれています。庭は広く空いていて、その先には「菜園」があります。ここは農家の屋敷まわりを再現しているようです。「田舎家」はこの時代には多くの数寄者が好んで、数百年も経た農家を邸内に移築し、庭園の点景としてまた茶室として利用することが流行していました。この「田舎家」も茶室として利用されていたのかもしれません。

 

 菜園の左手には「藤山会長像」という書き込みがあります。これは伝記に記されている藤山雷太氏の古希壽像のことと思われます。彫刻家北村西望氏の作で、1933(昭和8)年除幕式が行われました。

 

 ところで、藤山氏の像からはやや左上に、書き込みはないのですが小さく鳥居が描かれています。さらに鳥居からは小道が四阿風の小さな建物に続いています。定かではありませんが、これはひょっとすると富士塚の登り口に建てられた鳥居と、頂上に設けられた四阿と見ることができますが、図にも伝記にも説明はなく、不詳というしかありません。

 

 高橋箒庵氏の日記に記されていた「三笠亭」は、そこから右上の位置にあります。そしてすぐ近くに「記念樹」とあるのは、「三笠亭」竣工時に訪れた元帥東郷平八郎氏が植えた稚松で、藤山氏は東郷元帥を篤く尊敬していたことが伝記に記されています。

 

 庭園の南の端にある栢林亭は、竹林の中に建つ朝鮮の家屋ですが、伝記では元は朝鮮の海州というところで荒廃して倉庫代わりに使っていた二百年前の建物を、移築改修して仏間として使っていたと記しています。また「外廊には、仏像其他朝鮮、台湾、南洋の旅行より持帰りたる美術工芸品を収む。」と書かれているのを見ますと、現在も庭園各所に置かれた各国の石造美術は、自ら持ち帰ったものであることがわかります。

 

 最後に左上に書かれた「日本庭園協会」の文字は、この場所に藤山氏が建てた藤山工業図書館があるのですが、その中に庭園協会の事務所が置かれていたからです。

 

 こうして庭園の全体像を見てきますと、建物も洋館あり、和風建築にも書院風、楼閣風、数寄屋風、民家風、大名屋敷の門とさまざまな様式があり、さらには朝鮮風もあってよく言えば多様多彩ですが、とりとめがないとも、まとまりがないとも言えるのではないでしょうか。また庭園に置かれた石造品も、多国籍のもので、あたかも藤山氏のコレクションを展示した庭園博物館という印象を受けます。親交の深い高橋箒庵氏が、庭についてのアドバイスをしても、庭そのものの印象や感想を一言も記していなかったことも、今になるとわかるような気持ちがします。

 

 

 

 

図版出典:『庭園と風景』(17巻6号 1935年6月号)日本庭園協会

引用・参考文献:『藤山雷太傳』西原勇次郎 藤山愛一郎、昭和14(1939)年

 

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