<消えた渋谷川と街と庭園ー6>

新宿内藤町 ⑥

 

□新宿御苑のまわりを歩く(6)

 玉川上水余水の流れは、上水、余水吐、余水川、渋谷川と地図や資料などでさまざまに記されていますが,ここからは渋谷川という名称で書いていきたいと思います。

 

 明治5(1872)年に渋谷川の西側の土地を、大蔵省に売却した内藤家は、渋谷川の東側の土地に移転しましたが、明治6年にはそれでもなお広大な敷地内に掘割を作り、渋谷川から水を引いて米搗き用の水車を設けました。続いて8年と9年にも掘割と水車を増設し、合わせて3台の水車で経営を行っていました。こうした水車を使っての精米業は、内藤家にとって貸家業と共に重要な家業の一つだったものと思われます。その後明治20(1887)年、真崎仁六氏が内藤家の水車の一つを借り受けて、日本最初の鉛筆工場を作るのですが、こうした水車の作られる経緯を見ますと、この時代には水車が貴重な動力源であったことがわかります。

 

 

 その渋谷川からの分水の状況と、水車の位置を示しているのが左の図1です。これを見ますと、分水された掘割は相当の長さにわたっていて、さらに水車は水位の関係からか、それぞれの分水ごとに設けられていたようです。まさに広い土地を持っているからこそ可能なことだったのでしょう

 

 また、この図には内藤家の分水口よりも上流に、西側の新宿御苑側にも分水口があります。これは新宿御苑内に水を引いて御苑内の製糸場の動力として水車を回すための分水口であったようです。

 

 この製糸場は、華族のための授産所の一環として明治23年に始められましたが、早くも6年後の明治29年には廃止されてしまいます。このため水車は放置されたか、あるいは取り壊されたものと思われます。

 

 

 

 

 

 

 

 左の図2は、新宿御苑内に渋谷川から分水した掘割の図です。分水口の下に堰を設け、水位を上げて取水しているように思われます。分水流はさらに途中で分けられていますので、水車は2台使われていたのかもしれません。

 

 二筋の分水は、いずれも玉藻池に入っています。そして池から流れ出た水は御苑内から流れ出し、再び渋谷川に合流していました。その渋谷川に合流する辺りにも水車が掛かっていて、これは園外ですが池尻水車と呼ばれていました。

  内藤家は、江戸時代初期から代々同じ土地に住み続けている東京では稀な家柄ですが、第17代当主の内藤頼博氏(1907-2000)が、先祖のことと自らの子供の頃の思い出を記した小文の中に、大正の頃の渋谷川の様子が描かれていますので、次に引用させていただきます。

 

「私の家の敷地と新宿御苑の間には上水が流れていて、滝があった。木が繁っていて一寸した幽谷であった。鯉もいたし、鰻もとれた。蛍も出た。その下に真崎鉛筆工場の跡があって、よく遊びに行った。鉛筆の黒いしんが一パイ散らばっていた。またその下に池尻橋がかかっていて、水車小屋があった。今のエムパイア・コーポのあたりである。」(「新宿とのゆかり」)

 

 内藤氏の思い出は、仮に内藤氏が10歳頃のこととすると、大正6年前後の頃と思われます。自家の経営していた水車については触れられていないうえに、真崎鉛筆工場が大井町に移転したのが明治の末頃といわれていてその跡地に遊びに行ったのですから、大正の初め頃には他の水車も含めて水車の利用が行われなくなっていたものと思われます。

 

 また文中に滝があったと記されていますが、この文章に続いて「折角の滝も、川床を崩して困るということで、大正年間に両岸も川床も石畳で固めた。すっかり風情がなくなった。」と大正の後期頃に河川改修が行われたことが書かれています。ところで、この滝というのは渋谷川のように勾配の緩い川ではあまり見かけないものですが、どのような滝だったのでしょうか。あるいは、分水口の下には堰が設けられていましたので、そこが滝のように水が落ちていたのかもしれません。そうであったとしても、大正時代の渋谷川は、木々に囲まれて、滝の音が響く幽谷のような姿であったことは、内藤氏の文章の中にうかがうことができるようです。

 

 

図版出典:図1『新宿の散歩道ーその歴史を訪ねて』芳賀善次郎 三公社 1972年

     図2『新宿御苑』金井利彦 郷学舎 1980年

引用文献:「新宿とのゆかり」内藤頼博 『地図で見る新宿区の移り変わりー四谷編』

              新宿区教育委員会 1983年

参考文献:上記以外

     『江戸東京街の履歴書③新宿西口・東口・四谷あたり』班目文雄 原書房 1991年

     『「春の小川」はなぜ消えたか』田原光泰 之潮 2011年

 

 

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