<消えた渋谷川と街と庭園―22>

 

新宿御苑 ⑦

 

□フランス式整形庭園 (1)

 玉藻池の池尻まで戻り、そこから苑内の東の端を巡る園路を南にたどりますと、その辺りは常緑針葉樹のヒマラヤスギの大木の林で、陽ざしが遮られているためか薄暗く、人影も見えない静かな園路が続いています。

 園路は少しづつ下っていて、ヒマラヤスギの林を抜けると、そこは御苑の東端の正門の内側で、門扉の向こうには外苑西通りの、渋谷川の流路をたどって歩いた際に見た風景が垣間見えます。

 

 ここは周囲よりも一段低く、おそらく御苑の中でも最も標高の低い場所かもしれません。それというのもこの場所は、四谷と千駄ヶ谷の台地の間を流れていた渋谷川の谷筋で、外苑西通りは、その川筋に沿って通っているからです。

 フランス式整形庭園は、そこから台地上にかけて上る、ゆるやかな斜面に造られています。門を背に庭を見上げますと、正面には真直ぐに砂利道が延びていて、両側にはさまざまな種類の木々を丸く刈り込んだ刈込垣が造られ()、左右への視界を遮り、正面に視線を集中させるような造りになっています。

 

 その先の、視線の焦点になる位置には、シュロの寄せ植えが見えていますが、もともとの計画では奥の台地上に、二階建てのルネッサンス風宮殿が建築されることになっていたようです。しかしそれは実現しないままに終わり、現在ではシュロの先には空虚な空と、現代の風景である新宿の高層ビルが、我が物顔に顔を出しています。

 

 苑内で最も低いこの場所に敢えて正門を設けたのは、高低差を生かして、正門から続くアプローチの先に、宮殿をより高く、大きく見せるとともに、馬車が進むごとに全容が少しずつ見えてくるドラマチックな演出を狙ったのではないかと思われます。そのために、正門に至る道路まで新設(新宿内藤町⑨参照)していたのですから、この整形式庭園は外国の眼を意識した、宮廷庭園の中でも最も重要な庭園であったのかもしれません。しかし、予算不足のため宮殿はついに実現しませんでした。

 また、この場所からは左右に園路が分かれていて、それぞれ4列に整然と植えられたプラタナスの並木道に続いています。プラタナスの並木は、珍しく円錐形に仕立てられ、中央の花壇を縁取るとともに、周囲の樹林からはくっきりと庭園を区画するかのように、樹形の違いを見せているようです。

 

 しかしこの位置からは、全体を見通すことはできません。それは、美しい景色はこの先にあることを予感させる、序奏に過ぎないからなのかもしれません。

 

(註)刈込垣に使用している樹種

   常緑樹―ツツジ類・サツキ・カナメモチ・チャボヒバ・アセビ・キャラ・ウバメガシ・グミ・ヤツデ・

       ネズミモチ・アオキ・チャ・マサキ・シロダモ・ヒイラギ・イトヒバ等

   落葉樹―モミジ・ドウダンツツジ・アジサイ・ウツギ・ボケ等

   

 

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