<消えた渋谷川と街と庭園―25>

新宿御苑 ⑩

 

□フランス式整形庭園 (4)

 整形式庭園の生垣の外側には、プラタナスの並木があります。並木は中央に馬車道が通り、その左右に設けられた遊歩道の両側に、それぞれ二列づつ立ち並んでいますので、左右を合わせると四列になります。さらに並木は、バラ園の南と北側に四列づつありますので、これらを合計すると八列という、数多くある東京の並木の中でも、他に類を見ない豪華な並木になっています。

 もちろん庭園の並木と、一般の道路の並木とでは同一視するわけにはいきませんが、それでもこの並木の美しさは群を抜いているというべきでしょう。それもこの並木そのものが、整形式庭園を構成する重要な要素なのですから、当然と言えるのかもしれません。

 

 整形式庭園の並木としては、全体の空間構成の見事さはもちろんですが、一本ごとの樹形が円錐形に仕立てられていることも見逃すことのできない点です。プラタナスは普通上部が丸く樹高の中ほどが膨らんだ卵型と言われる樹形になるように剪定されますが、この並木では、他にはほとんど例のない円錐形に剪定されています。

 

 そうした人工的な樹形そのものが、整形式庭園にふさわしい形を示しているのですが、それだけではなく、庭園の中心部のバラ園からの視線の先に、円錐形の樹形が連なる並木が見えていて、それが背景ともなり庭園の外周を区切って、その外の樹林とを遮断する役割を果たしていたのですから、その意味でもきわめて重要な存在であったのです。

 

 整形式庭園にとっては並木の樹形を維持し続けるという、そのことが百年もの間完成時の形を守ってきたことにもつながるのですから、整形式庭園における毎年の剪定という作業の大変さも、わずかとはいえ想像されるのです。

 

 それはともかく、並木道は華やかな花こそありませんが、四季折々の魅力が感じられる散歩道でもあります。プラタナスの春のみずみずしい若葉も美しいものですが、夏の強い日差しを遮っている木陰のベンチに休む時や、秋バラの終わった紅葉の時期も、ひっそりと静かなたたずまいを見せ、物思うような散策にふさわしい散歩道になります。ことに晩秋の落ち葉が散り始めたころの並木道は、ヨーロッパのどこかの街にいるかのような感覚を覚えます。

 

  そんな印象を私が持つのは、中学時代に見た映画『第三の男』(キャロル・リード監督 日本公開1953年)の強烈な印象を受けたラストシーンが、今でも脳裏に焼き付いているためかもしれません。舞台はオーストリアのウイーンの中央墓地の並木道、ハラハラと散る落ち葉の中を、ヒロインのアリダ・ヴァリが、彼女を待つジョセフ・コットンに目もくれずに歩き去る有名なシーンですが、その場面の並木道と御苑のこの並木道とが、私の頭の中でオーバーラップして刷り込まれてしまったようです。それ以来、この並木道を見るたびに『第三の男』のラストシーンを思い出すのですから、もう他のイメージは全く浮かばないほどです。

 

 私にとっての整形式庭園の並木道は、そんな昔の記憶につながる場所であり続けているようです。

 

 

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