<消えた渋谷川と街と庭園―27>

 

新宿御苑 ⑫

 

 

□ イギリス風景式庭園 (1)

 幻の宮殿予定地から西の方向を眺めると、平坦な芝生が広がり、それが遠くまでまったいらに続いています。芝生の両側には、芝生を縁取る木々が連なってつくる樹冠のラインが、視線を遥か彼方の樹林にまで延ばして、パースペクティブを強調するかのように続いています。

 

 ところどころに、樹冠のラインをこえている木々もあり、それらは樹高が20mから30mもある大木であることを考えますと、都会の真ん中にあってこの空間が、いかに雄大な広がりを持っているかということを改めて感じます。

 

 こうした景観を見せるこの場所は、単なる芝生広場ではなく、日本で初めて造られたイギリス風景式庭園といわれる庭園で、宮殿を挟んで前庭部分がフォーマルなフランス式整形式庭園、そして宮殿の反対側の主庭となるこの部分が、インフォーマルな風景式庭園となっていて、明治の宮廷庭園として造られた御苑では、ヨーロッパの庭園を代表する対照的な庭園様式が共存しているのです。

 

 御苑の風景式庭園の特徴と言われているのがビスタライン(見通し線)で、宮殿から見て、地表面の芝生のつくるラインと、樹冠がつくるラインが彼方に消点を結ぶ中心線です。御苑の西洋庭園は、前庭と主庭とが異なる様式で造られていますが、正門から整形式庭園の中央を通り、宮殿を貫いて風景式庭園の中をまっすぐに通るこのラインの存在が、全体を一つの庭園にまとめているように思われます。

 

 ビスタラインについては、苑内の解説板にも書かれていますが、ビスタラインの存在を考えれば、可能な限り平坦で真直ぐな長いラインを描くことができるのは、敷地形状と地形条件から見て、南東から北西にほぼ苑内を貫通するように延びる線上に正門、整形式庭園、宮殿、そして風景式庭園を配した現在の配置が、最適の選択であったことがよくわかります。

 

 これに対して、内藤家中屋敷時代に正門があった、北の甲州街道側に正門を設けた場合、既存の広い道路からすぐにアプローチできる利便性はありますが、直線のラインを引くと途中に渋谷川の浅い谷があり、また距離が短いために、平坦で長いビスタラインを設定することはできなかったと思われます。

 

 それらのことを考えますと、御苑の庭園計画において、最も重要とされたのは長く平坦なビスタラインの確保、ということであったのではないかとさえ思えるのです。なにしろその条件をクリアするためには、苑の東端の外苑西通りに面して正門を設ける必要があり、そのため苑外の道路まで新設しているのですから、第一の優先順位とされていたと考えても不思議はありません。

 

 

<<消えた渋谷川と街と庭園―26 新宿御苑 ⑪

営業時間

平日10:00~18:00 

定休日

土・日曜日、祝祭日

お問い合わせ