<消えた渋谷川と街と庭園―29>

新宿御苑 ⑭

 

□ 渋谷川の谷筋の湿地とラクウショウ林

 イギリス風景式庭園の西の端にあたる樹林を抜けていきますと、苑内を大きく周回する園路に出ます。ここは御苑の最西端で、すぐそこに境界の柵があり、その向こう側では御苑をかすめて造られている道路の工事現場が見えています。園路を左に取り南に向かいますと、園路はわずかに下っていて、正面にラクウショウ(落羽松)の林が現れてきます。林の先は向こう上がりの坂で、ここが渋谷川源流の浅い谷地形であることがわかります。

 

 ラクウショウはこのような川筋の、おそらくは地下水の流れる湿地を選んで植栽されたものと思われます。ラクウショウは北米原産の落葉針葉樹で、湿気を好む性質ですので、明治初期に種子がもたらされ、そこから育てた苗木がこの場所に植えつけれたのでしょうが、まさに最適の場所だったのではないでしょうか。現在11本のラクウショウは、樹高が30mをこえる巨木に成長していて、湿地に生育しているために気根を数多く立ち上げています。その特徴のある気根は、大きいものでは1mほどもあり、特異な景観を見せています。  

 別名ヌマスギ(沼杉)ともいわれますが、鳥の羽のような葉が秋には紅葉して落葉するさまから落羽松と名付け、また湿地や沼地などに生育する性質から沼杉と名付けるなど、樹木の性質をわかりやすく命名した昔の人のセンスのいいのには感心します。

 ラクウショウの魅力は、カラマツと同様に何と言っても春の新芽時と秋の紅葉といえるでしょう。春の若い新葉の爽やかな浅緑の樹林も美しいものですが、晩秋には紅葉した落ち葉が散り敷いて、あかるい日差しに照らされた林床が、いちめんに赤く染まるのも捨てがたい味があります。

 

 そんな、他では見ることができないこれだけの樹林が、一時は道路建設のために失われようとしていたのです。幸いにも御苑を管理する環境省や有識者などの強い反対によって計画は変更されて、道路の一部がトンネルになり何とか残されました。それでも昔の天龍寺の湧水を水源としていた元の渋谷川の地下には地下水が流れていたのではないかと思われますが、その水脈もトンネル工事で絶たれてしまったのではと心配になりますが、どうだったのでしょうか。

 

 

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