<消えた渋谷川と街と庭園ー40>

新宿御苑 ㉕

 

中の池・イギリス風景式庭園 (2)

 中の池の周りは、サクラが多く植栽されていますので、春の花見の頃にはさしもの広いイギリス風景式庭園の芝生も園路も人でいっぱいになります。しかしそれほど混雑しているようには感じられないのは、ひろびろとした水面のあるおかげで、空間にゆとりがあるためなのでしょう。

 

 秋の紅葉が楽しめるこの時期は、これも皇室庭園以来の伝統ある菊花壇の展示が行われていますが、会場が日本庭園ですので、このあたりには比較的人が少なく、また木々もいまだ浅い色づきということもあってあまり人を気にせず散策もできますし、写真を撮ることもできます。そこでゆっくりと池の南岸の園路をたどって、中の池北岸の風景を眺めることにしたいと思います。

 

 やはり池の周りということになれば、紅葉に囲まれたレストハウスが景観ポイントになります。この位置からは、背景の紅葉だけではなく、それが水面に写ってよりにぎやかに見えるとともに、さらに手前の木の枝の紅葉までも加わって、なんとも贅沢な景色があらわれていました。これもこの時期だけのもので、夏の青々とした木々の葉群が茂る時期であれば、ただうっとうしい景色に過ぎないのでしょうが、季節が違えば庭の印象もまったく異なるのですから、庭についての印象を書くというのも、ずいぶんとあやういことと言えるのかもしれません。

 

 それというのも、造形的な日本庭園であれば、池の形態や護岸の石組、滝や沢飛石、灯篭や石塔等々季節に左右されない構成要素について書くことができるのですが、造景的な自然風景式の庭では多くの場合植栽による景観構成が行われることが多く、その場合には特に季節的景観特性(例えばサクラの花や紅葉の美)によって印象が左右されてしまうのです。

 

 今の私は、やはりそうした印象のもとに、この記事を書いているのかもしれませんので、「中の池・秋の印象」という限定で読んでいただきたいと思います。

 長大なビスタラインが特徴的な平坦な大芝生地を縁取る落葉樹の大木も、反対側の中の池から見ると、斜面の芝生の背景としてきわめて効果的な役割を果たしているようです。それは、人は前に開けてなお背後が閉ざされた空間に安心感を覚えると言われていますが、この斜面の芝生地は、池に向かって下りながら開かれた水面を見下ろす位置にあって、ここに座る人にとっては、目の前に広がる景色を眺めながらも、自らの背後を守られている形そのものが心理的にも安心を覚える、心地の良い空間になっているからです。

 

 こうした地形や空間構成に加えて、この中の池北岸は、旧渋谷川に沿って形成されたゆるやかな斜面をそのまま生かし、全体に芝生が多く、植栽も落葉樹が多いために明るい印象があります。池の形態は、日本庭園のように複雑な汀線の出入りはなく、また水辺に庭園工作物などもないため、ことさらに池の周りに人が集まるわけでもなく、芝生に座っている人たちも何かを見るというよりも、ただ静かで穏やかな空間と時間とを楽しんでいるように思われます。

 

 こちらもそうした人たちを横目に、のんびりと散策しながら写真を撮っているつもりでしたが、彼らから見ると、「何をせかせかと写真なんぞとって歩いているんだろう。」という風に見られているのかもしれません。そんなことを思いますと、庭を造る人間は、しょせん庭を楽しむことがやはりできないのかもしれません・・・。

 

 

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